第19回 PDFのバージョンと国際規格
〜目的に最適なPDFを見つけよう〜

PDFにも種類がある?

企業などの組織で活用するPDF、あるいは特定の仕事でPDFを作る際に、その作り方を指定された経験はありませんか。
PDFを作る際のオプションとしては様々なことが考えられます。それ以前に、PDFにはバージョンや国際規格があり、作り方の指示の多くは、特定のバージョンや規格に合致するように作ることを求められることが多いと思います。
そもそも、PDFの仕様はどういう決まりになっているのか、バージョンや国際規格などについてのおさらいをしてみましょう。

PDFの仕様の基本

PDFは、米国サンノゼに本社のあるAdobe Systems(アドビシステムズ)社(現在のAdobe社)がAcrobatの保存用ファイルとして世に出したのが始まりです。このファイルの仕様は最初から公開されていて、だれでも見ることができました。さらにPDFを閲覧できるソフトウェア「Acrobat Reader」が無料で公開され、普及が加速します。
ちょうど、CD-ROMやネットワークからのダウンロードでパソコンのソフトや文書が入手できる時代、インターネットの黎明期と重なります。2007年、国際標準化機構(ISO)による国際規格化のため、AdobeはPDF 1.7の仕様を米国の業界団体に権利を譲渡します。その後、PDFのバージョン1.7がISO規格となります。
PDFが関連するISO規格は複数ありますが、PDF本体そのものの規格は下記のとおりです。

  • ● ISO 32000-1: 2008 (PDF 1.7)
  • ● ISO 32000-2: 2020 (PDF 2.0)

ISOは世界中で利用するルールを取りまとめて、規格にする国際団体です。ISO規格は、ISO(International Organization for Standardization: 国際標準化機構)によって作成される規格です。
皆さんはJIS(日本産業規格)をご存知でしょうか。JISは産業標準化法に基づき制定される日本の国家規格です。ISO規格は、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく(一部は日本語に翻訳されて)JIS規格としても発行されています。つまり、PDFはJISにもなっているということなのですが、あまり実感はないかもしれません。

PDFのバージョン

PDFにはバージョンがありますが、その変遷を表にまとめました。

PDFバージョン 公開年 主な機能
1.0 1993
1.1 1996
  • ・色の扱いの強化
1.2 1996
  • ・Acroフォーム(記入フォーム)
  • ・Unicode対応
1.3 2000
  • ・日本語フォントの埋め込み
  • ・電子署名
1.4 2001
  • ・透明効果
  • OpenTypeフォント対応
  • ・タグ付きPDF
1.5 2003
  • ・レイヤー
1.6 2004
  • ・電子署名の強化
1.7 2006
  • ・複数ファイルの添付
  • ・暗号化、電子署名の強化
  • ・ISOで国際規格化(ISO 32000-1: 2008)
2.0 2017
  • ・PDF2.0
  • ・ISOで国際規格化(ISO 32000-2: 2017*

*ISO 32000-2: 2017は廃止となり、現在はISO 32000-2: 2020が公開されています。

PDFを頻繁に作成する方でも、上記の表の「主な機能」の項目を見て、内容を把握できる方はそう多くはないと思います。このように、一般の方々がPDFのバージョンの違い、細かい機能の追加や変更点に配慮しながらのPDF作成や加工は現実的ではないと思われます。
ただ、実際にPDFのバージョンを気にする必要があるのは、PDFを作る時だけです。PDFを表示したりPDFを加工したりする際のPDFのバージョンは、多くの場合、ソフトウェア側で対処してくれます。
仕様上ではPDF1.3は透明効果が使えませんし、最新フォントをPDFに埋め込むことができません。こうした理由から古いバージョンのPDFの利用はお勧めしません。
筆者の見立てですが、世界的に見てPDF2.0はまだほとんど使われていません。そのため、ソフトウェア側(開発側)の対応も十分ではないと考えられます。
筆者お勧めのバージョンは、ソフトウエア側の対応も手厚く受けられる上に最も高機能で、ISO規格にもなっているPDF1.7、一択ということになります。

ISO で定義されているPDFを利用した規格(サブセット)

ISOで規格化されたPDF本体の仕様については前述のとおりですが、それよりも以前に、Adobeが策定に関わったPDFを利用した様々な技術仕様があります。特に印刷分野や文書の電子化、アーカイブ(情報の長期保存)分野でPDFが利用されると考えていたようです。これらの規格はPDFのフル仕様から問題になるような機能やオプションを制限あるいは削除することで、問題が起きないような仕様を定義しているので、サブセットと呼ばれています。
ISOで規格化されたPDFのサブセットは下記のとおりです。

  • ● PDF/A:長期保存用PDF
  • ● PDF/UA:アクセスビリティへの対応を目的としたPDF
  • ● PDF/E:エンジニアリング向けのPDF
  • ● PDF/X:印刷用PDF
  • ● PDF/VT:主に印刷などで使用する可変データ(差し替え等)に対応したPDF

PDF/Aは“/”を読まずに“ピーディーエフ・エー”と呼びます。同じくPDF/Xは“ピーディーエフ・エックス”といった具合です。
ISO化されたサブセット以外にも、PDF/HやPDF/X-Plusなど業界団体などで作成されたサブセットがいくつか知られています。ただ、技術の進歩や環境の変化などで廃れてしまったものもあり、サブセットを利用する際は最新の情報を確認しておくとよいでしょう。

肝心なのはPDFの役割・目的

PDFのサブセットについて、PDF/Aを例に少し詳しく見ていきましょう。
PDF/AはPDF/A-1(2005年)、PDF/A-2(2011年)、PDF/A-3(2012年)、PDF/A-4(2022年)と進化しています。1~4の各番号はパートと呼ばれています。さらにパートごとに適合性(仕様や機能の違い)によるレベル分けがされています。例えば、PDF/A-1はaとbの2つのレベルがあります。aとbはAccessibleとBasicの頭文字です。

  • ● PDF/A-1a – Level A
  • ● PDF/A-1b – Level B

PDF/A-2はa、b、uの3つのレベルが定義されています。uはUnicodeの頭文字を指していて、レベルBの要件にプラス、PDFのCMap(文字のUnicodeテーブル)が正しく作られていればPDF/A-2uと称することができると規定されています。

  • ● PDF/A-2a – Level A
  • ● PDF/A-2b – Level B
  • ● PDF/A-2u – Level U

なお、本記事では、それらのレベルの詳細は特にご紹介しません。理解が難しいということもありますが、その違いを知ったとしても、一般のPDFユーザーにとっては手も足も出ません。一番良い方法は、利用の目的に一番叶う規格を、PDF作成の際に選ぶことでしょう。
筆者のお勧めは、ISO規格になっているPDF1.7がベースで、かつ作成が容易なPDF/A-2bまたはPDF/A-2uを、作成可能であればアクセシビリティーに最も優れたPDF/A-2aをお勧めします。

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